エレヴェイテッド・ホラー
2014年ごろから、ホラーが作家の名前で語られるようになりました。『ババドック』『ウィッチ』『ゲット・アウト』『ヘレディタリー』『ミッドサマー』。怖がらせ方が変わったというより、何のために怖がらせるかが変わりました。喪失、人種、家族、共同体。ジョーダン・ピールは『ゲット・アウト』について、『ローズマリーの赤ちゃん』がジェンダーで語ったことを人種で語ったのだ、と本人が説明しています。四百五十万ドルで作られて、二億五千万ドル以上を稼ぎ、脚本賞を獲りました。ここで、この節でいちばん書いておきたいことを。「エレヴェイテッド・ホラー(格上げされたホラー)」という呼び名を、作り手たちは嫌っています。しかも、その代表と見なされている人ほど強く。アリ・アスターはこう言っています。この言葉は嫌いだ。自分がその箱に入れられたせいで、ホラーの好きな人たちが気を悪くした。この言い方を作ったのは自分ではないし、使ったこともない。投げつけられたときも、身がすくむ思いだった、と。ジョーダン・ピールも、格上げされた映画を作ろうとしていると思われたくない、それは罠だ、自分はイカれた映画が作りたいんだ、と言っています。ジェニファー・ケントは、自分には意味をなさない言葉だ、何も新しいものを発明したわけではない、自分なりの語り方をしただけだ、と。格上げされた、という言い方は、ほかのホラーが下にあると言っているのと同じです。この地図はほかの場所でも、名前は外から後から来る、という話を何度も書いてきました。ノワール、ヌーヴェルヴァーグ、ブロックバスター、ドキュメンタリー、時代劇、Jホラー。これはその次で、そして名づけられた側が声を上げている、たぶん唯一の例です。だからこの節の名前も、借りものだと分かったうえで置いています。
もうひとつ。世代の対立という見方も、たぶん合っていません。二〇一四年十二月、『エクソシスト』を撮ったウィリアム・フリードキンが、『ババドック』についてこう書きました。これほど恐ろしい映画は見たことがない、自分がそうだったように、あなたも心底怖がることになる、と。A24が波を作る前の話です。旧い世代の頂点にいる人が、いちばん早く見つけていました。