シネマティック・ユニバース
2008年の『アイアンマン』の、本編が終わったあとの短い場面から始まります。ニック・フューリーが現れて、もっと大きな話があると告げる。あの場面が発明でした。ただ、始まり方は思っているのと違います。ケビン・ファイギ本人が振り返っています。サミュエル・L・ジャクソンが明日、厚意で立ち寄ってくれる。出てもらって、その場で考えよう。壮大な設計図の実行ではなく、行き当たりだったわけです。ファイギが語る構造の元はコミックでした。十冊、十二冊、十五冊と各自の本が続いて、そこにクロスオーバーの事件が起きる。終わったらまた自分の本に戻る。この読み方の型を、映画の公開順に置き換えた。二〇二四年までに四十五本、世界の興行収入は三百億ドルを超えました。ただし一位は一瞬でした。二〇一九年に『アベンジャーズ/エンドゲーム』が『アバター』を抜いて歴代一位になり、その後『アバター』が奪い返して、いまは二位です。反対の声も一枚岩ではありません。スコセッシは二〇一九年十月の雑誌の取材で「テーマパークだ」と言い、十一月に新聞に自分で寄稿して言い直しました。コッポラはリヨンでもっと強い言葉を使い、のちに釈明しています。そして追随した側は、あまりうまくいきませんでした。ユニバーサルが古典的な怪物たちで同じことをやろうとした企画は第一作で止まり、会長のドナ・ラングリーが、世界は共有宇宙を求めていなかった、と総括しています。DCの共有宇宙は十六本・十年続いて二〇二三年に畳まれました。分かれ目としてよく挙げられるのは、集合させるまでにどれだけ各自の映画を作ったか、そして全体を見る人が一人いたかどうかです。いま他社で続いているのは、いちばん静かに始めたゴジラとコングの一群くらいです。
最後に、この節でいちばん書いておきたいことを。この形式は、たぶん新しくありません。一九四三年の『フランケンシュタインと狼男』で、別々のシリーズの怪物が同じ映画に同居しました。翌年の『フランケンシュタインの館』では、ドラキュラと狼男とフランケンシュタインの怪物が揃います。一九六二年には東宝が、他社のキングコングの使用権を八千万円で買って、自社のゴジラと戦わせました。動員千百二十万人は、いまもゴジラシリーズの最高記録です。六十五年前にも、四十六年前にも、同じことをやった人たちがいたわけです。ただし正直に書いておくと、この繋がりを線として引くだけの根拠は、まだありません。「最初の共有宇宙だった」と言っているのは後の世代の批評で、いまの作り手が先例として名前を挙げた記録には届きませんでした。だからこの節から過去へ伸びている二本は、この地図でいちばん薄い線、私見です。薄いまま置いておきます。